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刑事部屋のカレンダー

刑事部屋(デカベヤ)のカレンダー解説、9日目から12日目

「9日   科学主義」
 
   この仕事帰納演繹消去法 あらゆる科学の論理を用う


 前に、捜査の仕事は、数学の難問を解くの似ている。と述べたが、外にも似たものがいろいろある。過去の真実を探求することから、歴史学に似ており、それ以上に考古学に似ている。
 また、病理追求の医学にも通じ、動機面を考えると、心理学や倫理学、あるいは思想、哲学の世界にまで広がってしまう。

 そんな中で、思考の科学としての論理学が、真実究明の方法としては、もっとも妥当であると考えられている。今日の科学捜査は、その意味において、ただ単なる科学の知識や機械、施設を利用したところの科学捜査でなく、学問的に、自然科学における真実を究明する科学的方法を、そのまま犯罪捜査に応用したもの、と云われている。

 元警察大学校刑事教養部長の尾崎幸一先生は、「仮説演繹法」を提唱され、その教えを受けた者は多い。紙面上、詳述することはできないが、① 事件現場で出来るだけ資料を収集し、② 資料の分析・総合によりある仮設を立て、③ 実験・検証により真否を確かめ、④ 真であればさらに裏打ちの資料を集め、否であればまたやり直すという方法。こいう方法が、「科学的捜査である」と、(犯罪捜査の考え方)で述べられている。

 捜査に志す者は、理論と経験の両輪から成り立つところのこの学説を、今後とも受け継いで欲しいものである。それにつけても、昼休みや放課後、テニスや将棋に興じられた先生を思い出す昨今である。

「10日   現代主義」

   大切な情報すべて電子手帳 入れて刑事も現代になる


 昔の弁慶の七つ道具を調べてみたところ、鎌、鋸、鎚、斧、熊手、太刀、薙刀であった。そこで泥棒の七つ道具を考えてみた。手袋、ドライバー、靴下(女物)、懐中電灯、紐、ペンチ、バール等であろうか。靴下は変装用になり、紐の代わりにもなる。

 それに対して、現代刑事の持ち物を拝見しよう。まず車、警察手帳、手錠、特殊警棒、手袋、携帯電話、小型カメラであろうか。まだまだ電子手帳を持っている人は少ないようである。
 しかし、電子手帳は使ってみるととても便利なものである。管内における盗難車や家出人、指名手配者や協力者など、500件近くの情報量をインプットできるし、必要なとき瞬時に取り出すことが出来る。またオプション次第、職務質問用の英語の勉強も出来る。でも落としたり、紛失したら情報漏洩で大変である。こうした機械を、上手に使いこなす時、刑事も現代になるというのである。


11日   定跡主義」

   点と線線から面へ広げ行く 捜査の手本に凱歌が挙がる


 警察庁指定第110号事件の話である。この事件は、昭和53年の暮から昭和54年の暮までの約1年間に、福島、静岡、山形の3県下で起きた、二人組のけん銃使用の広域銀行強盗事件である。

 犯人検挙の端緒になったのは、犯人が銀行を下見した時に、新規口座を開設した際、申し込み用紙に記載した筆跡である。これが(点)となって、次いで付近のホテルの宿泊者名簿の筆跡と結び付いて(線)となり、さらに、そのホテルの駐車場の利用状況から容疑車両が浮かび上がり(面)に広がり、遂に犯人が割り出されたのである。
 時の山形地検検事正から「広域捜査の金字塔を打ち建てた」と激賞されたものである。

 振り返ってみると、この事件は、2管区4県警、(関東管区の静岡県、東北管区の福島、山形、それに犯人が居住していた宮城県)にまたがる広域重要事件であり、警察庁および管区警察局の強力なバックアップのもとに、「4県合同捜査班」が見事に機能した事件であった。
 後に、事件発生県でない宮城県警も含めて、4県警察が警察庁長官賞を授与されたのは、所管の管区警察局刑事課長として最高の喜びであった。
 またこの事件について、打ち上げの席で、時の山形地検検事正は、「広域捜査の金字塔を打ち建てた」と、激賞されている。

 第一の功労は、なんといっても山形県警の全県体制による基礎捜査の素晴らしさである。
 ① 毎戸聞き込み調査班は、雪の日も雨の日も、天童市全市をしらみつぶしにローラにかけ、特 定の聞き込み班は、現場周辺の所帯を対象に、多いところでは20数回、個人では30数回に及 んだ人もいたとか。それでも市民は一言の苦情を洩らさなかったという。
 ② また銀行班は、被害銀行のビデオカメラに写っていた9,222名の解明に当たった。
 ③ 宿泊班は、天童市および山形市内のホテル・旅館の8,922名の宿泊カードの解明をし  た。
 ④ 車両班は、福島、静岡、山形3事件の緊急配備の検問票81,942台の索引カードを作成し、入 校中の警察学校初任科生の協力も得て、その総当りを実施している。

 これらの市民の協力、県警挙げての総合力が、事件検挙に結実したのである。今でも毎年12月の第一土曜日、当時の探偵たちが天童市に集まって、「指定110号事件の会」が開催されている。 あれから、もう28年が経過した。この事件を指揮された多くの方が勇退され、或いは物故されていて往時は茫々であるが、山形県警の名指揮官であった故松本 太刑事部長を偲んで、この文を認めている。

    わが胸に 人には見えぬ 勲章あり 指定110号 事件検挙す    


「12日   組織主義」

    目的の検挙を目指し船出する 君は舵取れ我は帆掛けす


 戦後の捜査の特徴は、組織捜査と機動捜査といわれる。つまり、分業細分化とスピード化である。しかし、この欠点は、分業化は徹底してくると成績主義に走り、ともすれば目的を忘れがちになることである。
 私は、プロ野球を見ることが大好きだ。監督のもとに、コーチ、選手が一体となって試合に臨むが、投手は、先発、中継ぎ、抑えと分業が確立し、捕手、内野手、外野手とも己のポジションが定まっている。
 例えば、走者一塁で、センターオーバーの2塁打を打たれたとすると、投手は、ただちに捕手のカバーに走り、一塁手は、ピッチャマウンドの側で、中堅手が捕手に投げ返しやすいように、目印の位置に立ち、二塁手、遊撃手のどちらかは中継点まで異動する。あの連携プレイは見事である。

 捜査員の中には、常にブツブツいうカニ屋、ことさらに大きなことを云うラッパ屋、一言多い一言居士等もいるが、百人百様の人たちの性格、能力の長所を伸ばして、それを統合化するのが幹部の役目である。
 組織の生命は、和であり、異体異心が、異体同心になって存分の力を発揮することによって、始めて組織目的は達成されると思う。あの船長と船員の関係のように。
by ilandneko | 2006-12-24 16:03
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短歌によって知る捜査の春夏秋冬

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