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刑事部屋のカレンダー

刑事部屋(デカベヤ)のカレンダー解説、13日~15日

「13日  経験主義」

   捜査には経験則が大事なり 殺し三年放火は八年


 「殺し三年、放火は八年」の出所は、今でも明らかではない。どなたかご存じの方がいればご教示いただきたい。私は「石の上にも三年」、あるいは「桃栗三年柿八年」の連想用語かなと思っている。ともあれ捜査のプロへの道は、果てしなく遠く、かつ、厳しい。

 特に、難しいのが捜査の対象の「人」である。被疑者、被害者、関係者、目撃者等は、男女、地位、身分、職業、学歴、出身地等それこそ千差万別であり、それぞれの立場、立つ位置によって応対が異なってくる。
 よく若い刑事が、事件の聞き込みに行っても「話の接ぎ穂が無くて困ってしまう」というが、老練の刑事にかかると、さんざん相手を褒め称えてすっかり打ち解けてしまい、必要なことを知らず知らずの内に聞き出してしまうテクニックを身に付けているのである。
 恋人同士は、赤い糸で結ばれているというが、何色かは判らないが、ベテラン刑事が容疑者に糸を掛ける技術はまさに至芸である。

 一般的に、殺人事件より放火事件が難しいといわれるのは、消火活動によって証拠が散逸してしまい、決め手が得られ難いためだ。最近は多くの場合保険金が掛けられているので、その証書と印鑑等があらかじめ別保管されていないかどうか、ここらも大きなポイントになるようである。

 事件は、自分を磨く「砥石」とよく言われる。多くの経験を積んで、修羅場に強い刑事になってほしい。


「14日  人情主義」

   濠端で投網を洗っていけませぬ 川路の教え心に持ちて


 テレビの大河ドラマ「翔ぶが如く」に出てくる田原坂抜刀隊隊長、川路俊良大警視の実話である。
 ある夏の朝、あまりに暑いので、川路にしては珍しく浴衣姿で、官舎に近い日比谷のお堀端を散歩していた。すると禁止されているお濠で投網を使って漁をしている一人の男がいた。今は浴衣姿なので職務執行は出来ないと思案していたところへ、折り良く制服の巡査が通りかかり、「そこで網を洗っているのは誰ですか」と優しく声を掛けた。
 件の男は、恐縮してしまい、獲った鯉をすべてお濠に返し、そそくさと立ち去ったという。
川路は早速、その巡査を1階級昇任させるとともに、この話を大いに喧伝したそうである。剣道の達人は、人情にも厚い人生の達人であったのである。

 話は変わるが、14日はグリコ・森永の日である。あの夏の日の麦藁帽子ではないが、「キツネ目の男」は一体どこに消えたのであろうか。
 私は、今でも電車や地下鉄の中で、1m80センチメートル近い大男を見るに付け、キツネ目かどうかを真剣に対照している。生涯忘れられない「顔」の一人である。 
 

「15日  根性主義」

   あと一歩あと一軒と訪ね行き 投げたらアカン逃げたらイカン


 「草魂」という新語を作った元近鉄の鈴木啓示投手の言葉を、四句、五句に借用した。彼は、入団当時、パ・リーグのお荷物といわれた近鉄に入って、懸命に投げ抜き、317勝をあげた鉄人である。だから彼の言葉からは、踏まれても踏まれてもなお生き続ける「草の根」の声が聞えてくるような気がする。

 西日本連続察事件(警察庁指定第105号事件)の時の話である。
 犯人、古谷惣吉は、わずか1年ばかりの間に、8人の老人を殺害した極悪非道の殺人鬼であった。その逮捕時の状況である。
 当夜は、この稀代の殺人鬼に対して、近畿管区警察局の指示で、管区内6府県警察による「同時一斉検索」が実施された。
 兵庫県警察では、2、300余名を動員し、午後10時から翌午前2時まで全域で検索を実施した。
 午後11時40分頃のことである。芦屋警察署の警察官3名は、江尻川河口の自分の管内の境界線まで来た。「やれやれ、これで終りだ」と思いながら、最年長の巡査が、かってこの付近に掘建て小屋を建てて住んでいた老人のバタヤ(屑拾い)のことを思い出した。
 たしか、先ごろの台風で隣接警察署の管内に移動している筈だ。ちょっと越境してしまうが、顔を覗いてみようということで足を伸ばして、犯行現場に遭遇、古谷逮捕に結びついたのである。

○ あと一歩、あと一軒と訪ね歩く「草の根根性」。これを刑事は、大切にしなければならない。
by ilandneko | 2007-01-06 11:39
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短歌によって知る捜査の春夏秋冬

by ilandneko
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